毎月20日21日22日は「どら焼」の日です。
2月 「お墓参り」
毎月21日に東寺の弘法さんをお参りされてから、お店にどら焼を買いに来てくださる、T様というお客様がいらっしゃいました。 大正のお生まれのT様はいつも店先で私と30分ほど話をされてから、訪ねて来る人に分けてあげるから…とリュックサックいっぱいにお菓子を買ってくださいました。バスに乗られるまでお見送りすると、見えなくなるまで窓から手を振ってくださいました。
毎月のそんな光景がどのくらい続きましたでしょうか。ある時、T様から電話が入り、「足が不自由になってきたので配達して欲しい」とおっしゃられるようになりました。それからは毎月21日に、店を閉めてから子供達を連れて、どら焼を持ってゆきました。ご主人に先立たれ、お子様もいらっしゃらず、お一人暮らしのT様は、お伺いするたび大そう喜んでくださり、子供達の頭を撫でては、お菓子やおもちゃを持たせて下さいました。
そんな状態がしばらく続いたある月、いつものように伺いましたが、いくらベルを鳴らしても出てこられません。部屋からは光が漏れているので、もしや…と垣根を乗り越えて庭に回り、子供達と一緒に窓ガラスを叩くと、やっと気が付いて出てこられる…ということがありました。また、ある月は私の顔をご覧になられ、不思議そうな顔をなさるので、どら焼をお見せすると、やっと私だと分かって頂けたということもありました。
それからは心配で、用事がなくても何度か伺いしましたが、窓ガラスを叩いても、電話を鳴らしても出てこられなくなりました。 ご近所の方に様子を尋ねたり、お菓子を見れば思い出して下さるかと、置いて帰ったりしましたが、とうとうT様にお会いすることは出来ませんでした。
気になりながらも月日は流れてゆき、先日、久しぶりに立ち寄ってみました。T様のお宅からは見知らぬ女性が出てこられ、昨年お亡くなりになったと聞きました。その方もT様とは縁の無い方でしたので、そこを管理されている不動産屋さんに調べて頂いて、息子をつれてお墓参りに行きました。当時、幼稚園だった息子もT様に可愛がって頂いたこと、一緒に窓ガラスを叩いて「ごめんください!」と叫んだことが記憶に残っているようです。
どなたに尋ねても、T様をよく知る方はなく、お位牌もお寺さんで預っておられました。病院でひとり息を引き取られたらしい… と伺ったときは、こうなることを私は分かっていたのに、もっと何かして差し上げられたのでは・・・と、いたたまれない気持ちになりましたが、T様を偲び墓前に手を合わせると、「きっと最期の姿を見せて私を悲しませたくなかったのだ」と思えてまいりました。
私の中のT様は、いつまでもお元気な姿のままでいらっしゃいますから。



