笹屋伊織が暖簾を掲げる京都。千二百年の歴史あるこの京都で、私たちは京菓子の文化を守り続けています。永く都として栄えた京都は、政治・文化・宗教の中心地でもあり、山紫水明の都は豊かな地下水に恵まれ、周辺地域から上質の材料が集まりました。それはまさしく菓子作りにとって、実に恵まれた環境であり京菓子の発展を支えた理由です。
京菓子は五感の芸術とも呼ばれます。美しい意匠の視覚・桜餅などに代表する移り香を感じる嗅覚・舌触りを愉しむ触覚・味わい深き味覚・そして菓銘が魅せる聴覚です。
なかでも菓銘は「唐衣」や「着綿」など古典文学・花鳥風月にちなむ名がつけられます。意匠においても、一目でそれとわかるようなものはなく、その色彩もはんなりとやわらかで、見た者の想像力を掻き立てて雅な世界を広げます。これぞ京菓子の美意識、王朝文化が育んだ世界観そのものです。京の菓子は、貴族たちの宮廷や茶道と結びついたことから、文化芸術と言わしめるほどに高められたのです。お菓子の前に地名が付くのは京菓子だけ。この誇りこそ、私たち京菓子の老舗が持つ信念でもあるのです。
今から三百年以上前、初代笹屋伊兵衛が御所の御用を仰せつかり、「伊織」の名を授かって「笹屋伊織」の暖簾を掲げたその日から、私たちの志は変わることはありません。
江戸時代に結成された上菓子屋仲間の流を汲む京菓子の老舗「菓匠会」は、現在十九軒。
京菓子の歴史を語る老舗も今では少なくなってしまいました。私たちは京菓子の老舗として、代々受け継がれた文化と技術を守り、さらなる発展を目指して守るための変化を恐れず、今日も直向きに和菓子作りに向き合います。